山中歯科ブログ
(コラム)筋機能療法(MFT)とオーラルフレイルについて
大泉学園北口徒歩3分の歯医者 山中歯科の山中大輔です。
先月の事になりますが、「筋機能療法」の研修会に参加してきました。
包括歯科医療研究会(代表:稲葉繁先生 会長:飯塚能成先生)という勉強会が主催している研修会の一つです。数年前より研修会の情報を目にしており、ずっと行きたかった研修会の一つでしたので、非常に楽しみにしておりました。
その研修会で得たものに加え、自分の考えを「コラム」と題して掲載してみました(長い文章になります)。
「口腔筋機能療法」とは、一般的に歯列矯正の分野で行わられる治療法の一つとして認識されています。
歯並びや咬み合わせの形成には遺伝だけでなく、舌の動かし方やお口の周りの筋肉の運動による影響が大きいとされています。幼少期の頃よりお口の周りの筋肉を鍛え、正しい舌の動かし方を習得することで、口腔周囲の発育を促し、正しい口腔機能が得られるとされており、そのために行うトレーニングを「筋機能療法」といいます。
小さなお子さんの成長とともに話題になる、「指しゃぶり」「舌突出癖(舌を前方に突き出す癖)」などを治すために行うことが多く、これらは顎の発育に大きな影響を及ぼし、「開咬(上下の前歯がすいている噛み合わせのこと)」や「V字型歯列(歯の並びが尖がっている状態)」などの歯列不正を生じさせるだけでなく、「口呼吸」をする癖が付いてしまいます。
正常な「呼吸」とは「鼻呼吸(鼻で呼吸する)」とされています。
鼻の粘膜には、外界からの様々な感染物質の侵入を防ぐ役割があり、また吸引した外気の温度を一定にする役割もあるとさせており、生体の免疫には必要な呼吸法です。その鼻呼吸ができなくなり、口呼吸をする癖がつくと生体には様々な悪影響(細菌の侵入、風邪、アレルギー、鼻炎、喘息、口内炎、口臭、歯肉炎、虫歯、いびき、口腔周囲筋の弛緩、頸椎周囲の筋バランスの変化、猫背などの悪い姿勢など、様々)があるとされています。
すべての動物は鼻呼吸により呼吸を行うようなつくりになっていますが、人間だけが、口呼吸をする生き物らしいですね。複雑な構音を可能にし、「会話」が出来るようになった代償だとも言われています。
この人体に様々な悪影響を及ぼす「口呼吸」を治すために、お口の周りの筋肉のトレーニングや、正しい舌の位置、正しい舌の運動による嚥下訓練、などを行い、口腔機能を回復していきます。
また、今回の研修会で、最も勉強させていただいたのは、「口呼吸」についてはお子さんだけの問題ではなく、「高齢者」「介護高齢者」にも当てはまるという事、「筋機能療法」は歯列不正を治療することが目的ではなく、正しい舌の使い方を習得し「正しい嚥下運動」を行えるようにする事が目的だということです。
高齢者や介護高齢者の中には、「口腔周囲筋の虚弱(オーラルフレイル)」という状態に陥っている方が多くいらっしゃいます。歯の喪失に伴い、噛み合わせが悪くなり、食べやすい物だけを摂取するようになると、良質なタンパク質がとれずに、筋力が衰えていきます(日本歯科医師会HPにも掲載されています)。口腔周囲の筋力も低下しくことで、「摂食・咀嚼・嚥下・消化」という生命に必要なサイクルが弱っていき、結果として要介護の状態が悪化していってしまいます。
「よく噛める」ようにするには、精密な義歯やインプラントなどを応用した「補綴治療」が必要になりますが、それだけではいけないと常々考えさせられていました。
研修会で学ばせてもらい、その先に必要なのは「摂食~嚥下」を行う口腔周囲筋のトレーニングだと納得しました。口腔周囲筋のトレーニングが上手くいけば、顔面~顎を支える頸部の筋力もアップしますし、その結果、身体全体の筋肉やバランスも整ってくるのではないでしょうか。
実際に、飯塚先生が紹介されていたケース(動画)の中で、麻痺のある患者さんや、車椅子生活を余儀なくされていた要介護高齢者の方などが、筋機能療法によって劇的に回復した様子を見させて頂きました。それも数人ではなく、数多くの方が筋力増加・口腔機能の改善が達成されていました。
また、高齢者の方に多い「誤嚥」。当院でも治療中にどうしてもむせてしまう方は少なくありません。これは、嚥下を行う際の舌周囲の筋力が低下(嚥下機能の低下)しているのは間違いありませんが、経験上、鼻呼吸ではなく口呼吸をしている方が多いという感覚があります。誤嚥によって外界の感染物質が気管に入れば、「誤嚥性肺炎」が生じる可能性もあります。
そのような方の多くは、加齢による唾液の減少に加えて「口呼吸」をするために「口腔乾燥」状態が続き、口腔内に虫歯や歯周病など様々なトラブルが生じてきます。当然、歯科医院でも口腔衛生指導(ブラッシングなど)や治療を行うのですが、口腔乾燥を防ぐことは困難だと言わざるおえない現状がありました。
しかし、今回の研修会で使用した「ラビリントレーナー」という器具を応用して筋機能訓練を行う事で、唾液量の増加・口腔周囲筋の筋力アップ・舌の筋力アップが効率よく行え、口呼吸から鼻呼吸への改善も可能になることがわかりました。
歯科医院で行う「精密な補綴治療」と「筋機能療法」を併用すれば、結果として健康長寿が達成されるのはないかと考えています。
患者さんの健康を担う医療機関として、当院でも様々なアプローチを行っていきたいと思います。
山中歯科 山中大輔